2012年12月2日日曜日

山頭火を巡る句

         ・・・北田傀子

  機内の小春日靴のつまさきにある
  つばき飲んで鼓膜が戻る雲の上だ
  

   〈其中庵〉
  つわぶきの傾きの西日さしている
  オゴオリザクラとあり枯葉一つ
  夕日のススキひと束は束ねてある
  庭の隅に夕日のもみじいちめん
  これだけの家の雪隠ものぞいて見た
  たわむれのずだ袋は後ろ前(由紀子さん)
   〈防府〉
  一目でわかって声が弾んで(田中睦子さん)
  これがチシャもみ小鉢もなつかしい(さくら)
  朝日あたる足元にも句碑(大福堂)
  木漏れ日の大石の前に並ぶ(戎ケ森公園)
  ふるさと近く来た空の雲が流れる
   〈芳松庵〉
  鯉悠々と浮く紅葉沈む紅葉
  紅葉沈んでいる山の水に流れてくる
  思わぬお点前冬の日を背に
  大鯉動かず紅葉に紅葉散る
  昨夜の雨の茶室の濡れ縁に紅葉
   〈天満宮〉
  山頭火の碑まではだしで歩いた
  木漏れ日の大石の石段一段づつ
   〈山頭火の小道〉
  打ち札の句を読んで路地をたどる
  はるばるきて歩く板壁に影
  冬青空の周防を流れる雲
  土塀を垂れて赤いクコの鈴生り
   〈山頭火生家跡〉
  訪ねあてて大石の碑面に映る
   〈護国寺〉
  顔で囲んでマッチの火のおぽつかなさ
  やっと線香くゆり触れた手が熱い
  お墓は木立隠れに空き瓶並ぶ
  境内これだけの見渡す空
   〈酒造跡〉
  酒樽崩れはててアワダチソウの中
  おばあさんはまだいてくれて応の暗がり
   〈山頭火妹家跡〉
  訪ねあぐねて刈田道の行ったり来たり
   〈湯田温泉〉
  ひとりの湯のわいてあふれる(山頭火の湯)
  地酒うれしく注いでいただくばかり
  色浴衣はなやかにここは湯田の宿
  はじめての飲めないお顔もお赤い(白坂さん)
  お会いできてわたしだけが飲める口
  夜明けにさめて湯宿の障子明かり
  ちんぽこの碑に腰おろして冷たい
  路地の流れの老男老女が湯煙の中
   〈風采居跡〉
  ここもあとかたもなく塀一杯に車庫
   〈山口〉
  冬の日あたたかく圓月庭のつわぶき
  ステンドグラスの漏れ日の赤色に立つ
  雪舟の庭というほともなく枯草
  雲の上も暮れ早くだれも無言

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