2012年12月4日火曜日

山頭火を巡る句

         ・・・今川由紀子

   〈宇部山口空港〉
  前方スクリーンの海も凪いでいる
  出島の滑走路が眼下にくっきり
  旋回のつばさ海につきそう

   〈其中庵〉
  木守柿のひとつがない柿の木
  其中庵の障子の新しい
  虫の喰った茶の木が其中庵の庭

   〈小郡駅〉
  それぞれに資料見て駅ホーム

   〈防府市内〉
  料理屋の中庭にも句碑のある
  突き出しはちしゃもみの心づくし
  和紙のあかりに照らされて俳句談議
  小窓の小菊枯れかかっている
  名句落とした慌てて拾う
  熱爛の気づけばぬるんでいた
  ふくらんだお銚子かるくなった
  酔ったついでのコロンボの真似

   〈防府天満宮〉
  落ち葉ふんで句碑の前
  控えの間から茶筅の音もれてくる
  梅づくしの闇がら庭の紅葉
  水底の紅葉の流れない
  紅葉の落ち葉のかるい足書
  屋根の紅葉がふぶいた
  句碑の秦に自転車おきざり

   〈山頭火の小道〉
  夏みかん持つ手が酸っぱい
  針金のハンガーに干し柿干してある

   〈防府駅〉
  うどんすすり防府の水

   〈護国寺〉
  墓前の一升瓶の酒は飲みがけ
  足のうら冷たく掛け軸みていく

   〈山頭火の酒造跡〉
  朽ちた酒樽から木が生えた

   〈湯田温泉〉
  ゆれる乳房に湯舟ゆすった
  句碑のまうらの湯につかる
  湯上がりの素顔よっつ並べた
  黙って目玉しゃぶっていた
  文庫の帯の腹がくちた
  旅の浴衣の口三味線だ
  口三味線のしゃみ弾く手ぶり
  水芸の羽子板に首のいったりきたり
  檜の湯ひとりじめの足を伸ばす

   〈湯田温泉駅〉
  単線の踏み切り鳴って黄色い車両

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